PDD図書館管理番号 | 000.0000.0220.01 |
【 】は傍点を示す。 |
人間失格 |
太宰 治:作 |
はしがき |
第一の手記 |
第二の手記 |
<*>鴎:「區」+「鳥」旁:補助なし |
第三の手記 |
一 |
してその翌日(あくるひ)も同じ事を繰返して、 昨日(きのう)に異(かわ)らぬ慣例(しきたり)に従えばよい。 即ち荒っぽい大きな歓楽(よろこび)を避(よ)けてさえいれば、 自然また大きな悲哀(かなしみ)もやって来(こ)ないのだ。 ゆくてを塞(ふさ)ぐ邪魔な石を 蟾蜍(ひきがえる)は廻って通る。 |
無駄な御祈りなんか止(よ)せったら 涙を誘うものなんか かなぐりすてろ まア一杯いこう 好いことばかり思出して よけいな心づかいなんか忘れっちまいな 不安や恐怖もて人を脅やかす奴輩(やから)は 自(みずから)の作りし大それた罪に怯(おび)え 死にしものの復讐(ふくしゅう)に備えんと 自の頭にたえず計いを為(な)す よべ 酒充(み)ちて我ハートは喜びに充ち けさ さめて只(ただ)に荒涼 いぶかし 一夜(ひとよ)さの中 様変りたる此(この)気分よ 崇(たた)りなんて思うこと止(や)めてくれ 遠くから響く太鼓のように 何がなしそいつは不安だ 庇(へ)ひったこと迄(まで)一々罪に勘定されたら助からんわい 正義は人生の指針たりとや? さらば血に塗られたる戦場に 暗殺者の切尖(きっさき)に 何の正義か宿れるや? いずこに指導原理ありや? いかなる叡智(えいち)の光ありや? 美(うる)わしくも怖(おそろ)しきは浮世なれ かよわき人の子は背負切れぬ荷をば負わされて どうにもできない情慾の種子を植えつけられた許(ばか)りに 善だ悪だ罪だ罰だと呪(のろ)わるるばかり どうにもできない只まごつくばかり 抑え摧(くだ)く力も意志も授けられぬ許りに どこをどう彷徨(うろつき)まわってたんだい ナニ批判 検討 再認識? ヘッ 空(むな)しき夢を ありもしない幻を エヘッ 酒を忘れたんで みんな虚仮(こけ)の思案さ どうだ 此涯(はて)もない大空を御覧よ 此中にポッチリ浮んだ点じゃい 此地球が何んで自転するのか分るもんか 自転 公転 反転も勝手ですわい 至る処(ところ)に 至高の力を感じ あらゆる国にあらゆる民族に 同一の人間性を発見する 我は異端者なりとかや みんな聖経をよみ違えてんのよ でなきゃ常識も智慧(ちえ)もないのよ 生身(いきみ)の喜びを禁じたり 酒を止(や)めたり いいわ ムスタッファ わたしそんなの 大嫌い
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二 |
あとがき |
(『展望』昭和二十三年六・七・八月号) |